四季を映した和菓子の成型に使われる菓子木型は、日本の伝統工芸のひとつ。造形の美しさから観賞用としての需要も高まり、近年は菓子業界以外からも注目されています。けれども、作ることのできる職人さんは減少の一途。四国ではたった一人、高松に工房を構える市原吉博さんを訪ねました。
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繊細な意匠が表現された菓子木型の歴史は江戸時代からとされています。
8代将軍・徳川吉宗が各藩に砂糖の国産化を奨励し、高松藩はいち早く生産に成功。いまに続く、高級砂糖・和三盆糖がこの地で誕生したのです。
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砂糖は塩や綿とならび讃岐三白のひとつに数えられ、当時の高松藩の財源を支える一大産業にまで発展しました。
華やかな和菓子文化が確立された江戸時代後期のこと。製糖で栄えた高松城下でも菓子職人が腕を競い合い、自然と木型職人もそこへ集まったのです。
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高松で菓子木型の卸売を行う家業に携わるなかで、自分でも木型を彫るようになっていったという市原さん。
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気さくな笑顔とユーモアにあふれた会話や振る舞いからは、よくある“堅物で無口”という職人さんのイメージが微塵も感じられません。
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木型の材料になるのは四国の山で育った樹齢100年以上の堅くきめ細かな山桜の木。ゆがみが出ないように5年ほどじっくり乾燥させると、水分が抜けてさらに丈夫な木材になります。
「堅くて堅くて、はじめは全然彫れなくてね」
彫りすすめる手を止めずに市原さんは口を開きました。
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常に50種類以上ある彫刻刀を使い分け、菓子を抜き出したときにどんな形になるかを考えながら、左右と凸凹が逆になるように彫り上げていきます。
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「頼まれごとは、試されごと。相手が望んでいるもの以上を作りたい」
毎日13時間、彫刻刀をにぎって木型と向き合います。

線一本をとっても、太さや角度が変わるだけで全体のバランスに響いてしまうため緻密さが求められる世界。
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こうして作られた木型は、磨耗しにくい、菓子がスムーズに抜ける、菓子職人にとって使いやすいものに仕上がるのです。
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長年の功績が認められ、1999年には香川県の伝統工芸士に認定され、2004年には厚生労働大臣から授与される卓越技能章「現代の名工」に。2006年には天皇が授与する黄綬褒章を受章しました。2014年には日本政府観光局のポスターの原型作成を手がけるなど、市原さんの元には国内外から次々と依頼が舞い込みます。
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「英語科を出たのに英語と縁のない人生やなと思っていたら、今になって観光客の方と英語でコミュニケーションをとるようになったんや」
市原さんとは言葉が通じなくてもすぐに打ち解けてしまえそうだから不思議です。
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「簡単な英会話とジェスチャーだけで、訪ねてきた外国の方と数時間も話が弾んでいることがあるんですよ」
そう教えてくれたのは、市原さんの娘さんである上原あゆみさん。
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菓子木型を使って和三盆作りが体験できる『豆花』を2009年にオープンさせました。
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今日も、全国から、世界から、工房を訪れる人がいることでしょう。
美しい菓子木型と職人の技と笑顔に魅せられて。
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木型工房 有限会社市原
- 住所
- 香川県高松市花園町1-7-30
- TEL
- 087-831-3712
- kigatano@ybb.ne.jp
- URL
- https://www.kashikigata.com/
- 対応言語
- 日本語、English
2018.10.16 / 木型工房 有限会社市原