近年、土地の食とそれらを育む風土・歴史・文化との関係性を楽しむ観光「ガストロノミーツーリズム」が注目されています。
香川・高松の食と聞いて、まず思い浮かぶのは讃岐うどんではないでしょうか。讃岐うどんは「香川の自然や気候に育まれた」と言われますが、さらに深く読み解くと、その自然や気候を作ったのは地球の大地の変動(ジオ)と言われています。
2023年、香川の食とジオとのつながりをひも解き、新たな価値を発信する「せとうち讃岐ジオ・ガストロノミーツーリズム研究会」が発足。長谷川修一(はせがわ しゅういち)会長が、讃岐うどんとジオの関係性を教えてくれました。
讃岐うどんは1億年の大地の活動が生んだ奇跡の食
讃岐うどんの成立には、主に4つの大地の変動が関係しています。
塩田に適した干潟の出現
1つ目は、1億年前の火山活動。
これにより基盤となる花崗岩(かこうがん)の大地が誕生。
花崗岩は風化すると砂になり、やがて干潟や砂浜になります。このときはまだ瀬戸内海に水はありませんが、後に干潟で塩田が作られます。うどんに欠かせない塩としょうゆの誕生です。
ちなみに、しょうゆの発酵を担う麹菌は鉄分が苦手。花崗岩を流れる水には鉄分がほとんど含まれず、しょうゆ造りにも適しています。
瀬戸内海気候の誕生
2つ目は、1400万年前の瀬戸内火山活動。
これにより四国山地がゆっくりと隆起しはじめます。
四国山地が南からの湿った空気を遮り、雨の少ない瀬戸内式気候が生まれました。
この火山活動で流出した安山岩は、長い時間をかけてテーブル状の山(メサ)やおむすび山(火山岩頸)など、現在の讃岐の風景を作っていきます。
小麦栽培にあった讃岐平野の出現
3つ目は、300万年前の中央構造線の横ずれ。
中央構造線は香川と徳島の県境付近を通る断層です。中央構造線の横ずれで讃岐山脈が隆起し、瀬戸内側はさらに少雨な気候に。そして讃岐山脈の崩れた土砂が水持ちの悪い扇状地、すなわち讃岐平野を形成します。
もう一つの大きな変動は、吉野川の向きが変わったこと。それまで香川県に流れていた吉野川が讃岐山脈に遮られ東に向きを変えます。雨が少ない上に大河もない、水不足に悩まされる香川県の気候はこれよって確実なものに。
先人たちは水持ちの悪い扇状地にため池を作って稲作をしつつ、その裏作として乾燥に強い小麦を栽培しました。うどんの麺の誕生です。
うどん打ちには扇状地の伏流水を使いました。高松では香東川(こうとうがわ)の扇状地にうどん店が集まっています。
瀬戸内海の登場
そして最後4つ目は、1万年前の氷河期の終わり。
海面が上昇して瀬戸内海ができます。300万年前の中央構造線の横ずれで生まれた複雑な地形は海底にも続いていて、島や陸が迫り出す瀬戸(せと)と平地が広がる灘(なだ)がシワのように繰り返されています。
香川県西部の穏やかな燧灘(ひうちなだ)は、うどんのだしとなるイリコのよい漁場となりました。
こうして讃岐うどんは1億年もの時をかけた大地の変動で奇跡的に誕生したのです。
大地の活動(ジオ)が生んだ高松の食材
ジオとつながりの深い高松の食材をご紹介しましょう。
瀬戸と灘が育む瀬戸内海の魚介
瀬戸内海の瀬戸と灘は、私たちに多くの恵みをもたらしてくれます。
潮の流れの速い瀬戸の砂地を好むタコ。
男木島の灯台周辺はタコのよい漁場で、高松市民のタコ好きを支えています。
また、瀬戸に集まるエビやカニをえさとしているタイも豊富。
高速潮流を泳ぐタコやタイの体は筋肉質。「瀬戸内海の魚はうまい」と評されるのは、この筋肉がうま味成分に変わるため。
タイラギやイカナゴも瀬戸の恵み。花崗岩由来の砂地を好んで生息しています。
一方、潮の流れの遅い灘には細かな泥がたまります。この泥を好むのがアナゴやハモ。
高松駅弁の名物「あなごめし」は高松市民や観光客に親しまれています。
塩江では地すべり跡の斜面地でお茶を栽培
高松市の南端、徳島県との県境にある塩江エリアは緑豊かな自然に囲まれた温泉郷です。
温泉郷の南に位置する讃岐山脈には、砂岩と泥岩が交互に層なった地質が広がっています。
風化によって起きた地すべりで南向きの緩やかな斜面地が生まれ、水はけのよい標高400~700mの場所ではお茶が栽培されてきました。
「昼と夜の寒暖差が大きい塩江の気候が、香りの高いお茶を育んでくれる」と一般社団法人トピカの村山淳(むらやま じゅん)さん。
比較的緩やかな斜面地とはいえ傾斜は35度。作業は大変です。1950~60年代に最盛期を迎えますが、高齢化とともに多くの茶畑が休耕地に。
そんな中、村山さんは地元の農家の先輩たちに教わりながら、茶畑の利活用をお手伝い。茶摘みや茶揉み体験を企画しながら塩江の茶畑の風景を守っています。
高松には山の幸も海の幸も豊富。ジオが生んだ唯一無二の讃岐ジオ・ガストロノミーを体験してみて。
▼讃岐ジオパーク構想 推進準備委員会
https://sanukigeo.org/
▼讃岐ジオパーク構想 Facebook
https://www.facebook.com/sanukigeo/
2024.11.21